午後の黄昏

時間がある日に思ったことを書いています。

コナン待ちの人々

今日は午前中にちょっとした用事があった。
自然な体内時計で生活すると夜中の3時くらいに寝て昼の12時くらいに起きる人間なので午前中の用事はハードルが高い。
なんとか頑張って、予定より35分遅く起きるも約束の時間ぴったりに現場に到着することができた。
約束は10時30分からで、本当に10:30ぴったりに事務所のドアをノックしたのである。事前に場所をきちんと確認していなかったから最寄駅に着いてから住所を地図で検索して探り探り歩いたのに、ぴったり!だったのである。
もしかしたちょっと遅れちゃったかなと思ったけど、ぴったり!だったのだ。
 
私はこうゆう所を少し”持っている”のだ。(大体は少し遅れることが多い)
 
ちょっとした用事だったのでぴったりに着いて、ほぼほぼ予定通り先方から聞かされていた通りの時間で終了となった。
 
今日はなんと東京でたまにある雪の降る日だった。
予報と多くの都民の期待通りあられ程度だが雪が降っていた。(私は雪国の出身なので東京の雪に関しては高い所から見ている。)
 
先方と軽く雪の話題を共有し事務所を後にした。
 
当初から予定していたが今日はこの後ランチでもして帰ろうと思っていた。
しかし、あられの降りしきる中馴れない場所でランチを探すのはちょっと気がひける。
とりあえずまっすぐ家に帰るとする。でも気分はランチである。
帰りしな多数の飲食店を横目に歩いていて、どうも今日はカレーの気分であることに気がつく。
最近になってまた始めたポケモンgoを起動させながら帰った。新しいポケモンが増えていて楽しい。もう帰るだけだから充電がぐんぐん減っても問題ないのだ。
 
家の最寄駅について家まで道を迂回しながら今日の気分を確かめる。
そして決意した。
あのカレー屋に行ってみよう!
家のすぐ近くにあるアラブ人数人がやっているカレー屋。
そのうちの一人がたまにチラシを配っているあのカレー屋。
ナンのあるメニューがいたってよくある感じのあのカレー屋。
客が入っっているんだがいないんだかわからない、あのカレー屋に!!
 
雪の降る中恐る恐るカレー屋さんの赤い格子のドアを開ける。
『イラシャイマーセー』
あのよくチラシを配っていたアラブ系男性である。
狭い店内にはすでにふた組のお客さんがいた。流行ってるじゃないか。
 
『ひとり』と私は言って二人がけのテーブルに通される。
いくつかランチメニューがあって迷う。レディースセットにしたいがセットデザートがなんなのか気になる。デザートの内容によっては違うメニューも検討したい。
先ほどのアラブ人男性に聞いてみることにする。
(メニューを指差し)私『デザートってなんですか?』
アラブ人男性『???エエ、アノ、カレーガフタツエラべマス、ホンジツノカレーワ〜』
 
ダメだ。伝わっていない。もう一度。
(メニューを指差し)私『デザートってナンですか?』
アラブ人男性『???エエ、アノ、カレーガフタツエラべマス、ホンジツノカレーワ〜』
 私『(やはりインド人に”ナンですか?”は鬼門なんのか、くっ…だがしかし…)』
 
(メニューを指差し少しゆっくり)私『この、デザートってナンですか?』
アラブ人男性『???エエ、アノ、カレーガフタツエラべマス、ホンジツノカレーワ〜』
 
ダメだ。そもそも日本語がまだわからないのかもしれない。
あきらめてレディースセットをたのむ。セットドリンクは当然ラッシーである。
 
すると注文にないはずの野菜スープが運ばれてくる。さっきの件があったので少し不安になる。
アラブ人男性『キョウワサムイデスカラ』
なるほど。『本日はお寒い中お越しくださいましてありがとうございます。こちらは当店からのサービスでございます。よろしければお召し上がりください。』ってことなのであろう。なんて気の利く店なんだ!!
有り難く温かいスープをいただきながらあたりを観察する。 
 
向かいの四人がけのボックスソファのテーブルにはガクトと及川光博を混ぜてちっちゃくしたようなきれいめの男の子と地味な女の子が向かい合って座っている。
この町にこんなきれいめの男の子がいたなんて。しかも女の方は地味め。なんて組み合わせなんだろう。そして仲良くオレンジラッシーらしきものを飲んでいるがどんな関係なんだろうか。新宿系アラサー独身女の私はVっぽいきれいめな男の子を見るとすぐに夜のお仕事なのでは?と勘ぐってしまう傾向がある。
しかしきれいめの男の子(うっすら色付きの丸メガネをかけている)の服装はだいぶ家着である。やはりこの辺に住んでいるのか。
夜のお仕事がどうかはだいだい服装でわかる。彼は色付き丸メガネ以外に派手なものは身につけておらずノーブランドそうなナイロンパーカー(ベーシュ)に私の知らないロゴの入ったスウェットズボン、実家っぽい靴下、クロックス風サンダルといたって普通である。
昼の早い時間からインドカレー屋で女の子とランチとは、この二人だけでも異様な光景である。(女の方は”地味”以外の観察要素がないためあまりよく見ていない。)
 
テーブルひとつ空けて隣のテーブルには二人組の男性客。よくワイシャツネクタイの上に着るようななんちゃって作業着を着ている。近所で仕事をしていて昼休憩なのだろうか。要はインドカレー屋さんにおじさん二人、である。
 
スープとサラダを食べ終わるとナンとカレーセットのプレートが運ばれて来た。
サフランライスも付いている。カレーも2種類選んだし、なんといってもナンがなんとも大きいのが嬉しい(ナンと日本語の相性はあまりよくない)。普通に30センチくらいある。しかもお代わり自由なのだ。もうだいぶ満足である。
 
ハフハフと熱いサフランライスとカレーを食べていると入り口のドアが開いた。
 
入って来たのはこれまたメガネの小さめの男の子だった。
男の子と言っても20代前半くらいなのだが30オーバーのアラサー独身女の私はきれいめの若い男性のことを男の子と呼ぶのだ。
こちらは黒縁メガネでおひとりさま。地味目な装いだが容姿はいい方で、かわいい系理系男子である。
この町にこれまたこんなきれいめな男の子が住んでいたなんて。そして一人でインドカレー屋さんにランチを食べにくるなんて。
都心のローカル駅のこの町はなかなか侮れない。
 
 そんなことを考えているとまた来客が。
 
今度はなんと白人女性二人組みである。
一人は金髪に鼻ピアス、手の甲から至るとことにタトゥーが入っているが白人外国人によくあることである。もう一人は対照的にやや落ち着いた感じである。まあ、二人ともバンドは好きそうである。
外国語と日本語を巧みに使いながら話していた。
 
この町とこのカレー屋さんのポテンシャルの高さに感心しいているとまた来客である。
なんだ全然お客さんに困ってないじゃないか。
 
入って来たのはなんと痩せ型の女子3人分くらいはあるおっきい女性であった。
日本でこんな身近にこれだけのサイズの女性が存在するとは。そして一人でインドカレー屋さんにくるとは。この町とこのカレー屋さんのポテンシャルは本当に侮れない。
この3倍サイズの女性は意外にも可愛い声をしていた。
お代わり自由のナンを何枚お代わりすのか気になるところだ。だがナンはお代わり自由だがカレーはお代わり自由ではないのでそこの配分がお代わりをする上でのポイントである。でも私は知っている、このような女性が外ではあまり食べないということを。
3倍女性はスマホをテーブルに置きながらランチセットを待っていた。
そしてスマホ画面には”ポケモンGO"の文字。なんと奇遇なことか。
『私もポケモンやってますよ!』と心の中で叫び自分のポケゴーをこっそりチェックし近くのポケストップを回すことができた。起動してたことを思い出させてくれてありがとう。
 
それにしても、アラブ人がやっているインドカレー屋さんに
ガクトミッチー系男子と地味な女の子のカップル、
なんちゃって作業着のおじさん二人組とかわいい系理系男子
アラサー女にバンギャ白人女性二人組、可愛い声の3倍女性である。
こんな風変わりなメンツの店内であればいつ事件が起こっても良さそうなものじゃないか。こんな舞台ありそうじゃないか。
 
役者は揃っている。だがただひとつ、分かっていることがある。
それは、ここにいる全員が”主人公ではない”ということである。
それぞれのキャラは素晴らしいしそれぞれがそれぞれの人生の主人公ではあると思うのだ。しかしひとつの物語にした時に主人公になれる感じではないのだ。
 
脇役がいくら揃っても主人公がいなければ事件は起こらないのである。
 
ここでコナンが来れば…!!
 
そうなれば確実に殺人事件が起こる。そして我々はまだ見ぬ黒い人影に騒然とし、おのおのアリバイを述べることであろう。
 
 
コナン!!…もしくは大泉洋でもいいかもしれない。
 
 
 
おのおのの人生の主人公であり、モブ人生でもある我々は主人公の登場を待っているのである。
 
そんなことを考えながら家路についた。
お会計の際にアラブ人男性に『ポイントカードイリマスカ?』と聞かれたので
『要る』と言ってポイントカードをもらった。
次回は妹でも連れてくるか。